「んだよ、えらく噛みつくじゃねぇか。お前本命いるって話だったけど、ほんとはこっちも狙ってたりしてな」
「これ以上くだんねぇこと言うなら殺すぞ」
「冗談だよ冗談。あんま熱くなんなって。そんなんじゃ、大嫌いな本多クンを潰せないぜ」
「お前に心配される義理はない」
そう言い捨てると、入れ墨の人に背を向けて、奥に続く通路へ向かっていく。
ずいぶんと気が立っているように見える。
冗談には、さらにうわての冗談で返すというのがあたしの知っている中島くんだ。
あの陽気なノリもつくりものだったのか。
もしくは、今は冗談を返している余裕もないのか。
無言の背中が怖い。
突き当たりの部屋の前で足が止まった。
他とは違って窓までもが真っ黒く塗り潰されている、周りから浮いた闇の空間。
教えてもらわずとも、そこに“誰”がいるのか、分かってしまう。
中島くんが三回ノックした。
「──深川さん」
扉の向こうに呼びかける。
返事の変わりに、カチャリと鍵の回る音が聞こえた。



