「あの、中島さん。やっぱり手くらい縛っておいた方がいいんじゃないですか?」

「いい。俺が見張ってるから」



中島くんの手が肩に回されたのがわかった。

端を掴んで誘導するように先を歩く。

夢だと思いたいのに、鼓動がいやというほど激しく響いて、これが現実だってことを突き付けてくる。



「車。用意してあるって聞いたけど」

「あっ、はい。あそこの角に停めてあります」


「黒いバンかよ……。おまけにフルスモとか今時だっさいのやめろよ。目立つなって俺言わなかったかな」

「すんません……っ」



中島くんの声は冷たい。


黒蘭のメンバーを従えるような立場だったなんて……。


今までの笑顔も優しさも全部嘘だったのかと思うと、怖さよりも悲しい気持ちに襲われる。


車のドアが開く音がした。

「足上げろ」と短く命令され、唇を噛んで従う。
あたしの次に中島くんが乗り込む気配がしてドアが閉まった。


ここは恐らく後部座席。

はあ、と気だるいため息が隣で落とされる。



「山本、煙草ちょーだい」

「えっ。中島さん、やめたって言ってませんでした?」

「あー…それキャラづくりだよ。好きな女のためにやめた〜とか、相沢さんに印象いいだろ」



あたしの中の“中島くん”が、がらがらと音を立てて崩れていく。

煙がツンと鼻をついて泣きたくなった。