──────え?



後ろから押さえつけられ、ビクともしない体。

目の前には、中島くん。


建物の影から出てきたもう一人の人物が、その隣に立ってあたしを見つめていた。



その顔には見覚えがあった。


以前に、中島くんが送ってくれた、黒蘭のメンバーの中にいた……人。



状況が理解できない。



「中島さん、このまま気絶させて連れて行きますか?」

「いや。目隠しで十分」



そう答えた中島くんは、もう笑っていなかった。


黒い布を取り出すと、ゆっくりとあたしに近づいてくる。



「相沢さん。人は、第一印象が一番大事だって言うよね。……俺、どうだったかな」



……なにを、言っているんだろう。



「明るさ、親しみやすさ。それから、真面目さと、誠実さ。上手く、偽造(つく)れてた?」



嘘、だ。

違う、……違う──。



脳が考えることを拒否している。

中島くんは──。


これまでの出来事が、走馬灯のように掛け巡った。

信じたくない。



中島くんは制服からスマホを取り出して、それを、見せつけるように耳に当てた。



「もしもし、深川さん。中島です。相沢萌葉を捕らえました。すぐそちらに向かいます」



抑揚のない声。

テレビでも見ているかのように、現実味がない。



「中島くん………嘘、だよね」


声にならない声がこぼれ落ちる。

それは虚しく響くだけだった。



視界を奪われる直前、


中島くんの首元、白い襟の裏側に

──黒い蘭の刺繍を見た。