暗黒王子と危ない夜



近くに住んでいるあたしでも通ったことのない通路だった。


換気扇から色んなにおいが流れてくる。

勝手口の下には、ゴミ袋が無造作に投げ出してあり、華やかな繁華街の裏側を知ってしまった気分。



「なんか……暗くて不気味だね、」

「そう? 西区だったらこんなとこ当たり前だよ」



路地から路地へ、どんどん進んでいく。

ドリンクを飲みながら付いていくも、どの方向へ向かっているのかもわからなくなってくれば、次第に不安に襲われて。



「ねえ、付き合ってほしい場所ってどこ?」

「それは……着いてからのお楽しみ、かな」



一向に教えてくれる気配がない。


普段は絶対通らないような道。

新鮮で、わくわくした気持ちもあるにはあるけれど、薄暗さに不穏な空気を感じずにはいられない。


さっきまではしゃいでいた中島くんの口数が急に減って、単調な足音だけが続いていく。


やがて、抹茶ラテの残りが4分の1ほどになったところで、ようやく中島くんが振り返った。



「歩かせてごめんね、もうすぐ着くから」



──笑顔、



「濃厚抹茶ラテ、美味しかった?」

「あ、うん。すごく。奢ってもらって、ほんとに申し訳ないよ……ありがとう」


「お礼なんか言わないで。“お詫び”だって言ったでしょ。……こんなんじゃ、足りないくらいだ」

「………え?」



そう、首を傾げた直後だった。



ようやく路地を抜けたと思った。


光が差して、痛いくらいの眩しさに目を細める。

すぐ近くで、人の気配がして。



「…っ、きゃっ?」


──声が出た。


どこからともなく伸びてきた手が、あたしの体を強い力で拘束する。


その反動で、持っていたカップが、カランと音を立てて、……地面に落っこちた。