暗黒王子と危ない夜



「ごめんねー、付き合わせて。お詫びになんか奢る」


会計を済ませて、参考者の入った袋を片手に出てきた中島くん。




「何がいいかなあ。…… あ、あそこのカフェ有名なとこじゃん、テイクアウトしよー。相沢さんも好きなの頼みなね」

「えっ。いいよ、そんな……」

「遠慮しないで。誘ったの俺だし奢りたいんだよ、さ、行こ行こ」



断りも聞かず腕を引かれる。

強引だけど嫌な感じはしない。
フレンドリーだな……とつくづく感心する。


そして、これは傍から見ればデートに見えるんじゃないかと今更ながら考えた。


周りを見てみれば、やっぱりすれ違い際に女の子の視線を感じて、「かっこい」「タイプ」などの声がちらほら聞こえてくる。



「そう言えば中島くん、好きな女の子いるんだよね」


さりげなく話題を振ってみた。



「うん、そうそう。未だにデートすらオッケーもらえてないけど」

「そうなんだ……。それでも、あたしとこんなことして、いいの?」



ふと黙り込まれたので、突然すぎたかな、と後悔していると。



「うーん、後ろめたさはなくもないかな。でも、これは “大事なこと”……だからね」



目を、合わせてくれなかった。


含みを持たせた言い方に引っかかる。


“大事なこと”


三成に、あたしを送るよう任されたことが?

それなら、わざわざ寄り道をしなくても真っ直ぐ家に向かえばよかった話。

参考書がどうしても欲しかったから……とか?



「そういえば、相沢さん。今朝は一人で学校に行ったの?」


思考を遮るように声が掛けられる。