「おお、さっすが! 充実してんね」
1階と比べてとても静かな空間だった。
音楽も控えめで落ち着いたものが流れている。
中島くんは、大学入試関係の参考書が揃えてあるコーナーの前まで来ると足を止めた。
「これこれ。これが欲しかったんだよな〜」
平積みされた1冊を手に取って、パラパラとページをめくってみせる。
「うちのガッコは授業まともに受けるヤツほとんどいねーし、先生もそれ分かってるから教える意欲失ってる」
「そんなにひどいの?」
「来てみりゃわかるよ。進学校から見れば地獄絵図間違いなし」
にやりと口角が上がった。
「でも学校生活自体は気に入ってる。勉強しないだけで、根っから腐った人間ばっかってわけでもない。地元上がりのメンツとは上手くやってるし、楽しいよ」
西高の噂は、正直ひどいものばかり。
荒れている学校に通いたいとは思わない。
それでも中島くんが楽しいと言うのは嘘ではないんだろうなと思う。
「自由なんだよ、何しようが咎められない。縛られてないから、皆ちゃんと個性も出せるし。悪いとこばっかでもないよ、案外ね」
笑顔は保ったまま。
だけど、声はどこか暗い響きを交えていて。
「だから。……あのとき本多が、西高受けなくてよかったな」
その言葉はあたしの耳に届かないまま消えていった。



