はしゃぐ姿を見せられたら嫌だとは言えない。
「ね、どう?」
「……うーん、いい、よ?」
あたしのためにせっかく来てくれているんだし、このあと予定があるわけでもないから、提案を受け入れることにする。
「中央区は栄えてるだけあって、街も人も明るいねー。どこも荒んでない、西とは正反対」
さっそく繁華街の方へと歩き始めた中島くんは、キョロキョロと辺りを見回して、感心したように何度も頷いた。
「西区ってそんなに荒んでるの?」
「荒んでるっつーか、もはやゴミ溜め? この前来てみて分かんなかった? 寂れた建物、ガラクタの不法投棄、そこら中で喧嘩勃発」
「あたしは青藍の倉庫と市川さんのお店にしか行ってないから、あんまり分かんなかったけど……」
「ああそっか。でも、なんとなくは感じるだろ、空気が全然違うじゃん」
西区に実際に住んでいる中島くんがそう言うなら、そうなんだろう。
繁華街に流れる明るい音楽や、楽しそうに放課後を過ごす学生たちの笑顔。
こちらでは当たり前にあるものが、もしかしたら西区には無いのかもしれない。
「あのさ。ここら辺って本屋ってある?」
さりげなく車道側を歩いてくれる中島くん。
「本屋? 西区にはないの?」
「あー…あるにはあるんだけど、参考書の部類が驚くほどなくてさ。バカ校ばっかだから、需要なくて置いてくれねぇーの」
やばいよなー、と笑いながらコーラを口に含む。



