暗黒王子と危ない夜

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「本多くん心配だね〜。 萌ちん、お見舞とか行かないの〜?」



お昼休み。

お弁当を食べ終えた伊代が顔を覗き込んできた。



「う、うん……。心配だけど、どこに入院してるとか知らないし……」


親友とはいえ、まさか本多くんの入院が嘘だなんて言えない。



「そんなの担任に聞けば教えてくれるくない?」

「てか、椎葉くんは知ってるんじゃないのっ?たぶんだけど!」


桃香も話に参加してくるから困ってしまう。



「み、三成……が言うには、その……面会謝絶だって」


得意ではない嘘でその場を凌ごうとした、けれど。



「面会謝絶?!」

「本多くん、そんなに容態悪いの?!」


ふたりして前のめりになって驚くものだから、これまたどうしようと頭を抱える。



「あっ……えっと、人と会うと、ストレスで悪化しちゃうかもしれない……みたいな? とにかく、そんなにひどい状態じゃないみたい……!」


仲のいいふたりに嘘をつき続けるのは心が痛む。

気持ちを落ち着かせるため、さっき自販機で買ったパックジュースに手を伸ばした。


それから他愛もない話をして昼休みが終わり、午後の授業が始まる。


平穏な1日。

だけど、本多くんがいない学校は──好きな人がいない学校は、少しだけ寂しい気がした。