見上げれば、笑顔がわずかに曇った。
「……今回は俺が折れてやったんだ」
声のトーンが、すとんと落ちる。
「あいつ、夜中に俺に電話してきた。1週間、時間がほしいってさ……。ワケ聞いても言わねーし。何するつもりか答えるまで頼みは聞けねぇって、言ったんだけどな」
一度言葉を区切って、バツが悪そうに目を逸らす。
「約束するから、どうしても頼むって言われた」
「約束……?」
「“1週間経ったら、絶対学校に戻ってくるから”……ってさ」
キーンコーン…とこの場に不釣り合いな、のんびりとした予鈴が響いた。
あと5分後には授業が始まってしまう。
焦りが芽生える。
授業が始まることへの焦りじゃなくて、三成の話を、この短時間で受け止めてしまわなければいけないことへの焦り。
「学校に行くって当たり前のことだろ。けど七瀬にとったら、普通に学校に行けるってことにすげぇでかい意味があるんだろうな」
わかるか? と圧力のある声が落とされた。
勢いで頷いてしまいそうになりながらも、きちんと考える。三成の言いたいこと。
「……うん、わかる」
しっかりと声に出して答える。
「俺はその七瀬の言葉を信じたんだ。小細工で手を貸すことぐらいしか出来ねぇとしても、失うよりよっぽどマシだからな……」



