だけどそれを伝えたところで、きっと強がっているようにしか聞こえないんだろうな……。
視線から逃れるように俯いて、ミルクティーの入ったカップを手に取った。
市川さんがテーブルにやって来て、同じ飲みものを三成の前に置く。
「僕は少し外に出てきますね。今日は店休日だから、好きな時間までゆっくり過ごすといいですよ」
市川さんがいなくなった空間は再び静まり返り、自分と三成の吐息がかすかに聞こえるだけ。
「なあ」
沈黙を破る声。
「お前、七瀬が泣くとこ、見たことあるか?」
「……え?」
本多くんが泣くところを、見たことがあるか?
頭の中で反芻し、首を横に振る。
「ないよ」
「俺もない」
三成がやっと一口目を飲んだ。
「生まれたときからあんな世界にいるからだろうけど、普通の人間が持ってる悲しいだとか苦しいだとかの感覚がイマイチ鈍いんだ、あいつ」
「……そういう感覚、麻痺してるって、本多くん、自分でも言ってた気がする」
今日、ふたりで話していた時のことを思い出した。
「精神が強いとか通り越して、俺から見れば、そーとうイカれてると思うわけだ」
落胆したようなため息が落とされた。
「黒蘭にいた時から、感情がないだの青い血が流れてるだの好き放題言われてたんだよな。俺は、七瀬が泣くとか想像もつかねぇ。けど……」
「……けど?」
返事がくるまで、やけに間があった。
「中島は知ってる」
「……知ってるって、何を?」
「“七瀬”を。俺たちには見せねえ弱いとこも全部。七瀬が“自分”を出せるのは、結局、中島の前だけなんだよ」