暗黒王子と危ない夜


いつのまにかスカートの裾を握りしめていた。指先は震えている。

三成の目的はだいたいわかる。

気持ちもわかる。


今聞いた言葉そのままだ。

本多くんは黒蘭にいた頃からエナさんを”自ら”守っていた。

それなのに、あの夜あたしを巻き込んでしまったせいで、“ 守らなければならないもの ” が増えてしまった。



エナさんが言っていた。

本多くんがあたしを守ろうとしてくれているのは、危ない目に遭わせてしまった責任を取るためだって。

そのことに、きっと間違いはない。



本多くんが “ 守りたい ” のはエナさん。


“ 守らなければならない ” のが

あたし───。



三成の言うとおり。

今の本多くんには、二人を守るなんて荷が重すぎる。

ただでさえ自分のことをあと回しにして、大事にしない人だから、このままだといつかきっと壊れてしまう。



「……三成なら、大事にしてあげられるのかな」



掠れた声が耳に届いた。

だけどそれは、あまりに小さくて聞き取ることができなくて。

次に聞こえたのは、決意したような、はっきりと芯のある声。




「わかった。おれはエナのそばにつく」


不思議と頭の中は冷静で、その言葉をすんなり受け入れていた。

スカートを掴んでいた指先からすうっと力が抜ける。



「──だとよ、」



三成がこちらを振り向いたのが気配でわかった。

あちらから、あたしの姿は見えないはず。



だけど、三成の声は

たしかにあたしに向けて放たれていた。



「わかったか。萌葉」