「やあ椎葉君。早かったね」
「飛ばしてもらったんで。てゆーか七瀬は?」
「休ませてるよ。熱が高かったから、ちょうど解熱剤を与えたところでね。しばらくは安静にしておいた方がいい」
数日ぶりに見る市川さんは、やっぱり穏やかで安心感があった。
見つめていると、不意に視線が絡む。
「この前の……萌葉ちゃん、だったかな」
「あ、はい…っ」
名前を覚えられていることに驚きつつ、慌ててお辞儀をした。
「ふたりとも中に入りなさい。七瀬君が起きていたら、声を掛けてあげるといい」
促されて、三成のあとについていく。
「あのさ、慶一郎さんは?」
「ああ。七瀬君を預けてすぐに帰ったよ。仕事が忙しいみたいでね」
「そうっすか。……それと、七瀬。普通でした? 体調悪い以外に……なんか、その」
言いたいことが伝わったようで、市川さんは表情を曇らせた。
「今日で、7年だったね。七瀬くんのお父さん」
「あいつが変な気起こさないか心配で。……慶一郎さんを殺したりすんじゃないか、とか。でもまあ、ぶっ倒れてんならそんな気力もねぇか」
市川さんが返事をするまで間があった。
「もう起こしていたのかもしれないよ」
「えっ?」
「その結果、ここにいる……というのも十分考えられるねぇ」
どういうことですか、と三成が詰め寄ると、市川さんは小さく吐息をこぼした。
「七瀬くんの制服から血のついた刃物が出てきた。それから腕には注射痕。体調が優れなかったのは元からだろうが、倒れたのは、慶一郎君が大人しくさせるために薬を打ったから……とも考えられるね」
三成が動きを止める。
「椎葉くんも知っているだろう。あの子は喧嘩で武器に頼ることはない。普段の七瀬くんなら絶対に持ち歩かないモノだ」



