暗黒王子と危ない夜


エンジンが掛かった瞬間、車は猛スピードで走り出した。
国道を縫うように進んだあと、知らない小道に出る。

向かう先は西区の、市川さんが経営するバー。

道幅が狭い代わりに、信号もなく車の通りも少ないため、ほとんど止まることなく、ものの数分で目的地に着いた。



「まだ店開いてねぇから裏口からだな」


車を降りた三成がお店が入っている中層ビルを見上げる。

先日、中島くんと訪れた場所。

再びここに来ることになるなんて思いもしなかった。



「シゴトで呼び出されて、そのままぶっ倒れたらしい。慶一郎さんがここに担ぎ込んできたってさ」



裏口に通じる螺旋階段からは、変わらず鉄の錆びたにおいがする。



「病院に行かなくていいのかな」

「倒れた原因は過労だろうな。慶一郎さんも七瀬が安心する場所はここだって分かってんじゃねーの。病院なんかよりよっぽど適薬なんだろ」



階段を上りきると三成はすぐに扉を叩いた。

少し経って、奥の方から足音が近づいてくる。



「市川さん、俺。三成」


三成が名乗ると、ガチャリとドアノブが回った。