女の子の声。
トーンを落とした、棘のある響き。
『あっ。出たのが私でびっくりさせちゃった? ごめんね。大事な用事なら、今日の夜にでも私が直接伝えておいてあげるよ?』
──どういうこと?
一旦スマホを耳から離して画面を確認してみても、表示されているのは本多くんの名前。
あたしが掛けているのは、間違いなく本多くんのスマホ。
どうして。
そんなの考えなくても分かる、簡単なこと。
本多くんのスマホは今
この人が、──エナさんが持っていて。
ふたりは今夜、会う約束をしているんだと。
胸が圧迫されたように苦しくなって呼吸が浅くなる。
喉が張り付いて頭も回らず。
何も言葉を返せないでいるとエナさんが笑い声をあげた。
『そんなに驚かなくったっていいのに。この際だから言っておくけど、七瀬は萌葉ちゃんのことなんてなんとも思ってないよー。今大事にされてるのは、危険な目に遭わせたことに対する、ほんの償いの気持ちでしかないんだから』
……それは、そんなの。
言われなくても分かってる──。
声にならない声をあげようとしたところで、これは強がりだと。
傷ついている自分を隠すため、エナさんにそれを悟られないようにするための、自己防衛だと気づいて目の奥が熱を持った。
『このスマホに登録されてる番号が、萌葉ちゃんだけ、なんて勘違いしてない? 元々は私のために七瀬が買ったものだって……知らないでしょ』



