暗黒王子と危ない夜



スマホはちょうど制服のジャケットに仕舞っていた。

裏側のポケットには本多くんに渡されたナイフがあるから、今日はやけに重たく感じる。



画面を見れば、桃香と伊代からのメッセージ通知が表示された。

何があったのか、どこ行ったのか、などの文がずらりと並んでいる。

かなり心配させてしまっているみたい。



【三成といる。大丈夫だよ】


ひとまず返信してから連絡先を開き、『本多七瀬』の文字を探す。


発信ボタンに手をかざすだけで指先が震えた。

あたしが本多くんに電話を掛けるのは、こういう緊迫した状況の時ばかりだな……と、この前の出来事を思い出してやりきれない気持ちになる。



「……じゃあ、掛けるね」


三成が頷いたのを確認して、恐る恐る画面をタップした。

3回、4回。


呼び出しても応答はなく。

それでもしばらく待ってみようとスマホを耳に当て続けていると、不意にぷつりと呼び出し音が切れた。

繋がったのだと分かり、心臓が跳ねる。



「もしもし、本多くん……?」


緊張で強張った声。

このあと何と言えばいいんだろう。

言葉を詰まらせると、相手の呼吸音がわずかに聞こえて。



それからすぐに



『──萌葉ちゃん? だよね』



……本人とは違うその声に、固まった。



『七瀬は今、近くにいないよ』