暗黒王子と危ない夜



言葉の意味は理解できるものの、内容がなかなか受け入れられず、そのセリフが何度も頭の中を行き来して……ぐらりと目眩がした。


「殺す」という言葉。

耳にすることはあってもその機会に触れたことはない。ほとんどの人がそうだと思う。


瞬間に冷たい汗が背筋を伝う。

それを本多くんが──と考えるだけで全身から力が抜ける感覚がした。



「おい。ずいぶん顔色悪いな」


三成の神妙な顔が目に映る。



「悪かったな……急にこんな話して。殺すってのは、俺が勝手に想像して不安になってるだけだ。本気にすんな」

「……うん」

「ただ。七瀬はそーいう危なっかしいとこがあんだよ。不安定っつうか……。強ぇけど、たまに倫理観狂わせて力の使い方間違える」



本多くんが危うい思考をもっていることは分かっていた。


自分の命は二の次だと言わんばかりに、人を助ける為にとんでもなく危険な行為を平然とやってのける。


本人の話を聞いてもその通りで、自分が生きることよりも他人を守ることに命を掛けている、自己犠牲型。


──自分の命を「大事にする」と、言ってくれたばかりなのに。


今まで自分の命を大事にしてこなかった本多くんが、本当に慶一郎さんを殺したいと思っていたとしたら。


……自分の身はどうなってもいいから、と。

あっさり捨ててしまうんじゃないか……なんて。




「萌葉、お前のスマホから電話掛けれるか」

「えっ?」

「俺が掛けても出ねぇんだ。お前に教えてる番号だったら出るかもしれねぇ」