暗黒王子と危ない夜


返事をするまえに引っ張られ、そのまま昇降口へ連れて行かれた。


「やばいって何?どうしたの…っ?」



焦りと緊張で、乱れた呼吸が戻らない。



「萌葉を巻き込んだら怒られるどころじゃないな。けど、俺一人じゃ……怖いんだ」

「……どういうこと?」

「七瀬は、」



あたしの腕を掴む手が、だらりと力なく離された。



「七瀬は親父さんのことずっと捜してた。存在自体じゃない、居なくなった理由……とかな。まだ生きてる……とは思ってねえ、けど、やっぱどっかでは信じてるだろ。てか、願ってるだろ」



震えた声は誰もいない廊下に悲しく響く。



「……そういえばお前、七瀬が慶一郎さんのそばにいる理由知りだがってたよな」

「……うん、」


「七瀬は、慶一郎さんだと思ってんだ。……慶一郎さんが、親父さんを殺したって」

「──え?」



あまりの衝撃に言葉を失った。

三成は続ける。



「なんてことない顔して、慶一郎さんの前で疑ってる素振りとかも絶対見せねぇ。従順に働いて、俺にも余計なことは喋らない。あいつ隠すのが上手いからな。……だからこそ怖いんだ」


言葉と言葉の間が異様に長く感じられた。

ゆっくりと唇が動いて、あたしの耳にその声が届く。



「七瀬はたぶん、今日、慶一郎さんを──殺すと思う」