「入り口手前に車をつけておきましたので、そのままどうぞ」
1階に下りると、柳居さんがにこやかに迎えてくれた。玄関にはあたしのローファーが綺麗に並んでいる。
「あ、そーだ。ほらこれ」
三成がポケットから取り出したのは、あたしのスマホ。
牧野に取り上げられたままテーブルに放置されていたのを、本多くんが拾っておいてくれたらしい。
「よかった……新しいの買わなきゃって思ってたから」
持っていないと心もとないし、なにより桃香たちとの思い出が詰まっている。
ほっと安心して車に乗り込んだ。
「電源切ってあんのは、わざとか?」
「へ? いや、あたしは何も……」
「カラオケ屋の近くまで来たとき、七瀬がお前に電話掛けたらしいんだわ。けど、繋がんなかったって」
スマホが鳴った記憶はないから、桃香に電話をかけさせたあとに、牧野がすぐ電源を切ったに違いない。
牧野のことを思い出すと泣きたいくらいの怒りがこみ上げてくる。
それでも、本多くんがあたしを気に掛けてくれていたんだと思うと、嬉しかった。



