暗黒王子と危ない夜


撮っているフリ……。


それが本当なら、この人は根っからの悪人ではないのかもしれない。

さっき牧野に声を掛けたのだって、まるであたしを助けるかのようなタイミングだった。

容赦しないと言っていたのに、どうして……。



「なあ本多。黒蘭に戻る気はねーの?」


ふと、静かな声が語りかける。

本多くんは答えなかった。



「お前がいなくなってから黒蘭はどんどん狂っていってるぜ。俺みたいなのにとっちゃ居心地は悪くねぇが、進む先は間違いなく地獄だな」

「まあ、だろうね」

「“お前”の黒蘭、このままじゃ本当に手遅れになるぞ」



一時の沈黙の後

乾いた笑い声が部屋に響く。



「深川を崇拝してる奴が何言ってんの」

「俺が深川信者じゃないことくらい、お前は見抜いてたろ。最初から」


「だとしてもおれにはもう関係ない。今の黒蘭がどうなろうと知ったことじゃない」

「あっそ。お前に戻る意志がないなら、こっちだってもう関係ねーよ。次にお前と顔合わせる機会があるとしたら、それは抗争が起きた時だろうな」