「すぐ終わらせるからこれ着てて」
ふわりと、パーカーのついたジャケットをあたしに掛けて牧野に向き直った、彼。
「狭い部屋でちょうどよかった。たしか牧野は接近戦が苦手だったよね」
わずかに腰を落として構えた姿勢を取るものの、相手の手は情けないほど震えている。
さっきまでの余裕を纏った表情はどこにもない。本多くんを目の前に恐れ慄き、敵意さえ喪失しているようだった。
「相沢さん、目閉じてて」
相手を見据える本多くんの瞳は、軽蔑や怒りすら映さないほど昏く冷えきっている。
まるで鋭利なナイフを向けられているかのような。その視線だけで殺されてしまうんじゃないかと、本気で思ったほど。
先に攻撃を仕掛けた牧野の拳をあっさりかわし、そのまま胸ぐらを掴む。
あたしは咄嗟に目を閉じた。
低い呻きと、体がぶつかり合う鈍い音がする。
ガタン、とテーブルが倒れたのが振動でわかった。直後、グラスが派手に割れる音がした。



