暗黒王子と危ない夜


牧野と二人きりになってしまった。


それから間もなく扉がノックされて。

はっとして、はだけた制服を戻そうとするも間に合わず。



扉が開かれた先──。


廊下の逆光で顔はすぐには見えなかったけれど、それはてっきり、水を頼まれた店員さんだと思いこんでいたから。


黒い上着の輪郭を捉えた瞬間、違和感を覚える。

びくりと体が震えた。



店員さんが、こんな格好をしているはずがない。

牧野も驚いたように固まっている。


“その人”が一歩、中に踏み込んできた直後、

フードの影から覗いた鋭い瞳に、心臓が大きく跳ねた。



………嘘。

ぼんやりとしていた意識が瞬く間に覚めた。



「久しぶり牧野。こんな所で何やってるの?」



浮き沈みのない声が響き。



「とりあえずそこ、退いてくれる?」



パッと手を離した牧野と入れ替わるように、あたしを包み込んだのは

少し低めの──紛れもない、本多くんの体温。