暗黒王子と危ない夜



「なにやめてんだよ、灰田」

「……俺、ドリンク取ってきていい?」

「はあ?なんでこのタイミング……。これからって時に。そこの内線で頼めよ、カメラは回し続けろ」



一旦カメラを置き、内線を手に取った彼と、霞んだ視界の中で視線がぶつかる。

表情はない。なにか言いたげに見えたけれど、すぐに逸らされた。



「あーえっと、ドリンク頼みたいんだけど。……はい。……──え?」


そう注文したかと思えば突然、戸惑った声をあげる。


「……じゃあ。できれば、水を……できればペットボトルで持ってきてもらえたら、いいかな」


そのあとに小さな声で何かをつぶやいて、彼は受話器を戻した。



「ベットボトルで頼むヤツがいるかよ」

「残念ながらここにいる。すぐ、持ってきてくれるってさ」


「部屋に入ってこられんの萎えるんだけど」

「なら、来てくれるまで休憩すればいい。……そんで、俺はちょっとトイレ行ってくるわ」



そう告げると扉に手をかける。

去り際、彼はもう一度あたしを見た。



優しい表情だった──気がする。