暗黒王子と危ない夜


「へぇ。けっこうイイ顔するじゃん」


体重をかけられて、仰向けの姿勢でソファに倒される。

いうことをきかない体が憎い。
泣きたいくらい無力だ。



覆い被さられたその時──

下から見上げたシャツの襟、その裏側に何かの印が見えた。


──黒い蘭の花形。

“黒蘭の構成員“だという証……。



「灰田、ちゃあんとカメラ回しといてね?」

「はいよ」


「心配しなくても、あとで交代してあげる」

「マジ?やったね。初めて見たときからタイプなんだ、このオンナ」

「……ああ。そういやお前の元カノに、似てるかもな……」



牧野たちが会話を続けているけど、あたしは聞いている余裕もない。


指先が首元に触れて、徐々に下へと移動していく。


気持ち悪い。……気持ち悪い。

反面、熱い体は軽く触れられるだけで電気が走ったように反応して、そんな自分に嫌悪感を抱いた。


相手の手が胸元に触れ、ぎゅっと目をつぶる。



ゆっくりとした手つきではあるけれど、決して優しくはない。

本多くんに触れられたときとは全然違う。本多くんの手は心地よかった。

昨日、本当は、あの冷たい体温にずっと触れていたかった……。


本多くんじゃなきゃ嫌なのに。

本多くんにしか、触れられたくないのに──。