「あー、勘違いすんなよ。俺はあんたの味方じゃない。私情を挟むつもりは毛頭ないし、俺は俺のやるべきことをやるだけだ」
「……」
「だから牧野が戻ってきたら容赦はしない。ただ、最初にあんたを見たとき、最小限の傷で済ませてやりたいと思った。……くらいは言っておくよ」
どこまでも惑わせるような言い方をする人。
きっとこれは、自分が圧倒的有利な状況だから───あたしに勝ち目がないと分かっているから、出てくるセリフだと思う。
気持ちに余裕があるから、無い優しさも見せることができる。
──この人が、敵であることには変わりはない。
こんな話をしている時でさえ、手の力を緩めてはくれないんだから。
「あんた、本多クンの女じゃなかったら手ぇ出してるくらいには俺の好みだよ」
そんなセリフ聞きたくない。
本心だとしても、本心じゃないとしても、どうせ、助けてくれないくせに。
「牧野が戻ってくる前に自己紹介しておこうか。俺は灰田。黒蘭の特攻をやってる」
ハイダ。───灰田。
どこかで聞いたのある響きのような気がした。
でも、思い出せない。
「俺は元々、深川派でも本多派でもない。けど、黒蘭の方が身に合ってんだ。だから“今の”黒蘭の総長様の命令に従う」



