暗黒王子と危ない夜


「桃香……あのね、カウンターで中学のときの友達と会ったんだ。……それで……ちょっと一緒に、話したいねって、なって」

『あー!そうだったんだ。おけおけ! じゃあ、あたしらは先に帰ってるね? また明日』



ぎゅっと唇を噛む。

助けて……という言葉が出てこないように。なんでもない風を装ったまま、通話は切れた。



「そうそう。素直に言うことを聞けば、手荒なことは絶対にしないからね」


そう言いながらも、もう一人はあたしの両手首を後ろから掴んだまま、少しも力を緩めようとはしない。


あたしのスマホを操る男と、あたしの体を拘束する男。

カラオケの個室に鍵はないはずだけど、全力で振り切ることもできそうにない。


そもそもこの人たちは、何の目的があってあたしをここに連れ込んだの……?



「そんなに怯えられてたら困るなあ。落ち着くように飲み物をとって来てあげよっか」



あたしのスマホをテーブルの上に置いて、にこにこと笑いながら立ち上がる。