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それは、3時間コースをみっちり満喫して、お会計を済ませたあとのこと。
お店を出たあと、制服のポケットにスマホがないことに気づいた。
「ごめんふたりとも。スマホ部屋に忘れてきちゃって……。すぐ取ってくるから先に行ってて?」
そう言い残して、小走りでカラオケ店の入ったビルに戻る。
入り口でエレベーターを待ち、やがて扉が開いたとき、
後ろに人の立つ気配がした。
特に気にすることもなく中に足を踏み入れる。
あたしのあとから乗ってきたのは二人。
「きみも4階ですか?」
声をかけられ、反射的に顔を上げると、立っていたのは制服姿の高校生。
ドキリとした。
胸元の校章が、西高のものだったから。
だけど、丁寧な口ぶりの彼が悪い人にはとても見えなくて「……はい」と小さくうなずく。
「中に、忘れ物しちゃって……」
「そっか。ちょうどよかった」
そう、にこりと笑いかけられたから。
この人たちもカラオケをしに来たんだろうと。降りる階が一緒だから、“ ちょうどよかった ” んだろうと。
……そんな、呑気な解釈をしたのが最後。
「……ひゃっ!?」
──突然、もう一人に強い力で腕を引かれた。
後ろからがっちりと体を固定されて、一瞬で身動きがとれなくなる。
「忘れ物はこれですか?」
相手の手には、なぜかあたしのスマホが握られいて。
状況が読めず、冷たい汗が背中を伝う。
「ずっと待ってたんだ。あんたが一人になる瞬間を」



