「んー……。この近くで、遊べるところとか、ないかなあ」
ここは学校から歩いて15分程度のところにある繁華街。
せっかく来たんだからこのまま帰るなんてもったいない気もする。
「ねえ。久しぶりに歌いたくない?ちょうど向かいのビルに入ってるけど、どう?」
桃香に言われて後ろを振り向くと、4階と5階のテナントにカラオケ店が入っていた。
「ちょっと古そうだけど いいんじゃな〜い? ドリンクバー無料だって〜」
「学割っても書いてある!萌葉もここでいい?」
頷く。歌うのは得意じゃなくても、ふたりと行くカラオケは楽しくて好き。
「決まりだねー。入ろ入ろ」
「よーし!いっぱい飲むぞ〜」
はしゃぐふたりに挟まれて、周りのことなんて全然見えていなかった。
気づくはずもなかった。
──すぐ背後に、あたしをつけていていた数人の男たちがいることに。
自分が置かれている状況が、想像よりもはるかに危険なことも。
毎日送り迎えをしてくれるなんて、少し大げさだと思って。
“ 万が一 ” 何かあるかもしれないから。
その程度の感覚でしかなかったのに。
本多くんたちが一緒に居てくれた時の安全は、ちっとも当たり前なんかじゃなかったんだ──。



