「あー……なんか、だめ、やめられない、……ほんと……可愛いね、」


そう零して。繋いでいないほうの手で、前髪をくしゃりとかきあげる。

やがて、ゆっくりとため息をおとした、彼。



「相沢さんて、三成のこと下の名前で呼ぶよね」

「あ……そうだね、“三成くん”って、」

「いいな、羨ましい」

「っ、な…え?」


もう、いろいろと困る。

こっちはキスでいっぱいいっぱいなのに。
これ以上、惑わせるようなこと言わないでほしいのに……。


「おれのことは呼んでくれないの?」


さっきからずっと、心臓を鷲掴みにされているみたい。


“ ななせくん ”

どきどきしながら、頭の中に文字を並べて。

まだキスの熱が残る唇を、開きかけた───そのとき。


扉のほうから、かすかな足音が聞こえた。

びくりとして息を飲む。


誰かが、この部屋に近づいてくる。

少し経って、それを追いかけるような慌ただしい足音が加わった。


……誰?

不安に駆られた矢先。


「おい待て、上には行くなっつっただろ!」


扉の向こうから聞こえてきたのは、誰かを引き止める三成くんの声だった。