何も言えないまま、数秒経って。
ふっと笑った本多くんが再び口を開く。
「男ってさ。ストレートにいけない場合はこうやって、ずるい駆け引きみたいなのするんだよ」
「……駆け、引き?」
「女の子に選択肢を与えたうえで、冗談っぽく伝えてみる。 押すか引くかを決めるのは、相手の反応次第」
たしかに……ずるい聞き方だと思う。
相手があたしのことをどう思っているかも分からないのに、そのひとことだけで、他へ向いている意識を根こそぎ奪っていくから。
本気なのかもわからない。
自分の答えもわからない。
それでも今は……本多くんしか、見えない。
目を逸らされる前に何か言わなきゃ、と思う。
まだ頭の整理もついていないけれど、逸らされた時点で何かが終わってしまう気がして。
あたし……今、どんな顔してる?
見つめられて恥ずかしいのに、ずっと見ていてほしい──。
自分の矛盾した気持ち戸惑って、
先に顔を背けてしまったのはあたしのほう。
代わりに、本多くんの指先をきゅっと掴んでいた───のは、ほぼ無意識。



