暗黒王子と危ない夜


「あーあ、またそんな困った顔して……可愛い、」


ぼそりと本多くんが何かを呟いた。
でも、聞こえなくて。

肌がよりいっそう火照るのを感じながら、遠慮がちに見つめてみると。



「……そういう顔。他の男には、あんまり見せないほうがいーよ」


すこし掠れた、低いトーンが鼓膜を揺する。

本多くんの瞳の中に吸い込まれるように囚われた。



「男と付き合ったことある?」

「な、ないよ。あるわけない……」


じゃあ、と。

優しく誘うような声。



「おれが付き合おうって言ったら、断る?」


────ドン……って。

動いた心臓の音は、打ち上げ花火みたいに。
言葉通り、本当に爆発するんじゃないかと、思った。

本多くんの瞳から逃げたいのに、体がいうことをきいてくれない。