暗黒王子と危ない夜


「……あ、別に、 離婚してるとかじゃなくて。仕事の関係で別居してるって感じ……です」

「そっか。……おれも同じ」



……同じ?

本多くんは視線を外し、ぽつりと呟く。



「おれも父親とは離れて暮らしてる」

「……そう、なの?」


どうして?

と、喉まで出かかったセリフは呑み込んだ。



── 本多くんの父親の代で、黒蘭は崩壊した。

中島くんに教えてもらったことが頭をよぎる。

軽々しく尋ねていい内容ではない気がした。



「大切な娘さんをこんなことに巻き込んでるって知られたら、怒られそうだな」



冗談めいた口調でそんなことを言って、ソファにもたれかかる。


「6時になったら下に食事の宅配が届く予定だから、相沢さんもみんなと食べていきなよ。 帰りのことは心配しないで。ちゃんと送る」


あたしはやっと一口目の烏龍茶を飲んで、頷いた。