もう振り返りはしなかった。
本多くんの言葉と。
それから……彼の“噂”を信じて。
“本多七瀬は──……”
本多くんの噂なんて数え切れないくらいあって、だけど、どれも信憑性に欠けるものばかり。
あたしたちの学校で不良と呼ばれる3年の先輩たちを、一人で全員病院送りにしたとか。
この街の一部の人間は、本多七瀬って名前を聞いただけで恐れ慄くだとか。
誰にも背中を触らせたことがないくらい強いとか。
なんせ、“極道一家のひとり息子”だから……と。
いつもにこやかな印象の彼がそんな人だなんて、にわかには想像しがたいけど。
もしかしたら、本当に……。



