笑顔に切り替わるその寸前───何かに怯えたような瞳をあたしは見逃さなかった。

ざわっと胸が騒ぐ。

後ろ扉がの閉まる音がして、慶一郎さんと本多くんが出ていったのが分かった。



「市川さん、また来ますね。今度はゆっくり──」

「琉生君」


市川さんが遮る。


「今日は、七瀬君をきみの家に泊めてあげてくれないか?」

「え、」

「あの男の家では、身体は休めても心までは休まらないだろう」


中島くんはすぐに返事をしなかった。

髪をそっと耳にかけて黙り込む。


少し経って、

「……今日だけですよ」

ぽつりと、そんな声。



「でも市川さん。俺が本多のこと嫌いなの知ってるでしょ? 本多だって、」

「そうだね。七瀬君も君のことに関して同じように言っていた。それなのに何年間もずっと、お互いにそばを離れようとしないから不思議なものだ」

「……だってあいつ、俺がいないとすぐ死にそーなんだもん」


苦く笑った中島くんが、やっと足を踏み出す。


「とりあえず今日はちゃんと泊めますよ、約束します。 七瀬は、大丈夫だって言ってる時が一番危ないからね」