中島くんは一瞬迷ったように目を逸らしたあと、「いいです」と小さく答えた。
「やめたから」
「へえ、それ本当だったんだ。あの琉生くんに好きな子ができたって、ほんとに意外だ」
中島くんの顔が赤く染まったのを、あたしは見逃さなかった。
「うるさいな。なんで知ってるんです」
「だって珍しいじゃん。琉生くんが女の子のことでそこまで頑張るなんて」
「……まあ。頑張っても手に入る気しないけど」
「弱気なのも珍しいよね」
「俺のことはいいから早く行ってください」
会話を拒絶するように顔を背けて、慶一郎さんを車から追い出した。
クールな見た目をした中島くんの、意外な表情。
きっとすごく好きなんだろうなって思ったら、なんだか急に胸の奥がくすぐられたような感じになって。
表情が緩んでしまいそうになるのを堪えた。



