暗黒王子と危ない夜


本多くんはしばらく何も言わなかった。

その代わりに、また、走った後のような少し乱れた呼吸音がわずかに響く。


隣から中島くんの視線を感じるし、慶一郎さんもミラー越しにこちらの様子を伺っているのがわかった。


「本多くん……?」


控えめにもう一度名前を呼ぶ。


『……中島に、かわって』

「……うん、わかった」


目で合図してスマホを差し出すと、受け取った中島くんは短く舌打ちをした。


「くそったれが、死ね!」


荒々しく。

突然そんな言葉を吐くからびっくりする。

思わず中島くんの顔を見た。