「また、本多に仕事を頼んだんですか?」
少し時間が空いて「だね」と。
運転席から短い返事が返ってきた。
「相沢さんを巻き込んだら、本多が怒りますよ」
「俺も悪いとは思うよ。でもこの際しょうがないだろ。あてにできるものが他にないんだから」
今度は中島くんが口をつぐんだ。スマホの黒い画面を見つめたまま、小さく息を吐き出す。
「本多に任せても大丈夫な相手だったんですか?」
「うーん……。今回はちょっと面倒くさい相手だったかもね。急いだ方がいいかもしれない」
「……まあへーきですよね、本多だし」
特に気にしていないように聞こえる、抑揚のない中島くんの声。
だけど、念を押すように、最後の音までしっかりとした低い音。
「……あのさ。琉生くん」
慶一郎さんがちらりと後ろを振り返る。
るきくん、と中島くんの下の名前を丁寧に呼んだ。
「何か勘違いしてるみたいだけど」
声色が低く変わる。
「七瀬“は”大丈夫だよ。多少の傷は負ってるかもしれないけど、ヘラっと笑って帰ってくるさ。いつもみたいに」
走行していた車が、赤信号で止まり。
反対車線を行き交う車のタイヤ音だけが、車内に響いていた。
「俺が心配してるのは七瀬じゃない。 “情報”だ」



