小さなその声は、風に攫われてすぐに消えてしまった。
その場に固まるあたしを置いて、中島くんは黒い車に駆け寄って声をかける。
「慶一郎さん、お久しぶりですっ!」
あたしが知ってる中島くんの中で、一番明るい声だった。
にこにこ、愛想よく。相手に向ける表情につくりものじみた違和感もなく。
傍から見れば、“ケイイチロウさんにとても懐いてる男子高校生” 。
だけど……。
中島くんのさっきの言葉が引っかかる。
ケイイチロウさんは、元凶。
本多くんをいいように、こき使っている大人。
あたしの立つ位置からでは、運転席の人物の顔は見えなかった。
近づいていいのかと悩んでいれば、ちょうど振り返った中島くんに
「相沢さん」
と名前を呼ばれる。



