暗黒王子と危ない夜


「今、なんて?」


聞き返してみても、中島くんは「いや……」と笑って誤魔化すばかり。


「ちゃんと教えてよ」

「……」


ふと真顔になった中島くんが、無言であたしを見つめる。

戸惑って、すぐ視線から逃れようとしてしまう。やっぱり異性と接するのは向いてない。



「相沢さんってさ、男に免疫ないよね」

「へ……」

「急にそんな、意識してます、みたいにそわそわされたら男は勘違いするんじゃないの」



俺はもうだいたい分かったからいいけど、と付け加えて。


「でも意外と、言いたいことは言うみたいだし。なんていうか素直? 俺は嫌いじゃない」



急に、なんの話をするんだろうと思った。

もう一度顔を上げてみる。



「"元凶"って言ったんだよ」

「え?」

「本多をいいように、こき使ってる大人」



後ろの方から、低いエンジン音が聞こえてきた。

中島くんが振り向いて、その車を視界に捉える。


あたしたちの手前で静かに止まり、真っ黒に染められた車体の窓がゆっくりと開いた。



「本多七瀬は、三崎 慶一郎(みさき けいいちろう)のお気に入り」