捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~

スカーレットは私達に向かってニコリと笑い、軽く会釈をするとその場から去る。

その場にふたりだけになると、ディアスは私の横へ立ち、人目も憚らず腰に手を回し引き寄せた。


「ちょ、ちょっと……!ディアス、恥ずかしいわ!」

「いいだろう、このくらい。周りの連中に見せつけてやるんだ。君は僕のものだとね。こうすれば他の男も気安くアリシアにも声を掛けないだろう?」

「もう……。ディアスったら心配性なんだから。安心して、私スカーレット以外とはほとんど口も聞いていないから」

「でも不安なんだよ。それだけ僕は君のことを好きなんだ」


そう言うと私の手を口元に寄せて、軽くキスを落とした。


鏡で見なくても分かってしまうほどに、顔が熱くなる。


こんな人前で、恥ずかしくなるような言葉と行動。

どこかに隠れる場所があるならば、直ぐにでも隠れてしまいたいと思った。


けれどディアスの言葉も行動も、愛されているからこそのものだとも思い、本当はとても嬉しくて仕方なかった。


人に愛されるって、こんなに幸せなものなのね。

そして人を愛すこともまた、幸せなものなのだと。





この幸せがこれからもずっと続くものだって、この時までは思っていた。



……でもまさかその幸せがこの夜会の二日後に、いとも簡単に壊れてしまうだなんて、そのときの私は知る由もなかった。