――その夜、珍しく外は荒れていた。

時折雷光と地を這うような轟音を鳴らして、木々を揺らす激しい風と、横殴りの雨が屋敷の壁や地面を打ちつけている。


私は眠れなかった。

眠れず、窓から外を眺めている。


それはこの嵐の五月蠅さのせいもあるが、他にも理由があった。


そう、ディアスのこと。

スカーレットは気にしないこと、と言っていたけどどうしても気になってしまっていた。


……ディアスがどうしてそこまで堕ちてしまったのか。

婚約破棄をするまで、彼に特に変わった素振りは見られなかった。

いつも通り、そのままのディアスしか思い出されない。


けれどあの笑顔の裏で、ディアスは良からぬことをしていた。


それがどのようなものだったのか、いくら考えてもその結果に行き着く言動も行動も思い当たらない。

思い浮かぶのは、彼との幸せだった日々だけ。



「きっとランスが知っているんだわ。……なにもかも、全て」


――彼は知っている。

知っていて、私には敢えて言わないでいる。


聞いてみようか。

知らないままで時が過ぎるのは、どうしても納得がいかない。


答えて貰えないかもしれないけれど、私には聞く権利があるはずだから。


一瞬、眩いばかりに部屋の中が光る。

そして轟くような音が響いた。


――外の嵐は、依然止まない。


それはまるで、これから起こる出来事を表しているかのようだった。