「変なアリシア」と言って、スカーレットは笑った。
アーチャー様と目が合って変に動揺してしまった、なんて言えない。
ましてや、ちょっと前に『私はディアス以外に心は揺れない』と断言していたのだから、なおさら。
心臓は少し早めに脈を打っている。
落ち着かせるように、少し深く息を吸ってゆっくりと吐き、再度チラリとアーチャー様の方に視線を戻した。
けれど、そこにはもうアーチャー様の姿はなかった。
人の塊も移動していて、どうやらアーチャー様は先程いた場所から移動したらしい。
なぜかホッとしてしまう私。
やっぱり私の勘違いよね。
彼が私なんかを見つめるわけないもの。
私の近くに誰か知っている人がいて、その人を見た時にたまたま目が合っただけのこと。
それで妙に動揺してしまうなんて、私どうかしてる。
どれだけ自意識過剰なのかと、心の中で自分自身を嘲笑してしまう。
自分はディアスだけなのだと。
心ときめく人はディアスだけなのだと、そう思っていたのに、たったこれだけで心乱れてしまうのだから、私もまだまだね……。

