「……あ。ねえアリシア、あそこ見て」


何かに気付いたスカーレットが、小さく指で示しながら促される。

私は目線だけを示した方向へと動かした。


「アーチャー様よ。遠征先から戻っていらっしゃってたのね、まさかこの夜会に参加されているとは思わなかったわ。相変わらず眉目秀麗なお方……。美しすぎてため息が出てしまう」


ほう、と甘いため息を吐きながら、スカーレットは見とれている。

女性達の恍惚とした視線の先、そこに彼はいた。



ランスロット=アーチャー。

侯爵でありながら騎士団の団長も務めている。

いわゆる軍人侯爵というお方である。


先祖代々続く由緒正しきアーチャー家の当主であり、加えて眉目秀麗。

さらに彼の戦歴は華々しいもので、四年前わずか二十二歳にして騎士団長の座へと昇り詰めた素晴らしきお人だ。


国王様もそんなアーチャー様を大変お気に入りでいらっしゃるらしく、第一王女との結婚を望んていると聞いている。


王女との結婚が現実となれば、アーチャー家はさらにその上の位、つまり公爵の位となるらしい。

同じ貴族でも気安く声など掛けることなどできない、特別な存在の人だった。



「そう言えば今回もアーチャー様の手腕により、ほぼこちらの軍が無傷の状態で戦争が終結したらしいわよ。あれだけの美貌と華麗なる剣さばきに鋭い頭脳、国王様が贔屓にするのも分かるわよね」


このバークレイ王国はあまり大きい国ではないが、作物を育てるのに適した気候と、貿易の要(かなめ)である鉱物が採れる山がいくつもある、とても恵まれた国であった。

そのため鉱物の加工技術など他国よりも優れており、バークレイで作られたものの価値は、どの国よりも高い。


ゆえに同盟を組まない国からは常に狙われていたが、ランスロット=アーチャー率いる騎士団の鉄壁の守りにより、国内は比較的平和が保たれていた。


「へえ、そうなの。彼のお陰で今の生活ができていると言うわけね。とてもありがたいけれど、でも私にはそれ以上は興味ないわ」


「まあ……、本当にアリシアったらディアスのことしか興味ないんだから。惚気過ぎは良くないわよ」


「当たり前じゃない。どれだけ素晴らしいお方が目の前にいても、今の私にはディアス以外に心が揺れないのだから。それだけ愛しているのよ」


「とても羨ましいわ、アリシア。私も早くそんな風に言えるような人と一緒になりたいわね」