「待たせてごめんなさい、アリシア」


スカーレットが私の元へと戻ってきた頃には、既に手に持っていたグラスの中身は空になっていた。

意中の人と話ができたことで、スカーレットは満たされた表情を浮かべている。

そんな彼女に対して、待ちくたびれた表情を浮かべてしまったら気分を害するだろうと、笑顔で返す。


「沢山お話ができたみたいで、幸せそうね」

「ええ!とても楽しい時間だったわ。それにまたお話しましょうと言ってくれたし、次の夜会が待ち遠しくて仕方ないわ!」


そう言って、スカーレットは満面の笑みを零す。

私よりふたつ年下であるスカーレットには、まだ婚約者がいない。


この国の結婚適齢期は二十歳。

それまでに大体の令嬢は結婚をすることになる。


貴族の令嬢が異性と知り合える機会は夜会のみ。

だから夜会へと参加が許される十六歳を過ぎると、皆必死に相手を探すのに躍起になる。


それには理由があって、相手が決まらず二十歳を超えると、自分の思いとは別に親が勝手に相手を決めてしまうから。

恋愛と結婚を夢見ているスカーレットにしてみれば、なんとしてでも自分の思う相手を捕まえたいと必至になるのだろう。



……かのいう私も実はそうだったわけで。


ディアスはそれほど容貌のいい男ではないけれど、とても優しい人で気が利く男。

それでいて話も面白く、会話を交わしていくにつれて、いつの間にか彼に惹かれていた。


会話の上手い彼はそれなりに女性には人気があって、私を選んでくれるかとても不安だったけれど、ディアスが私に結婚の申し込みをしてくれたときは、それはもう嬉しくて天にも舞い上がる気持ちだった。


自分が想う男性と未来を歩んでいけるのは、貴族の女性にとって何よりも変えられぬ幸福。


だから親友であるスカーレットにも、同じように令嬢としての幸せを掴んで欲しいと思うのは、自然なことなのだ。