アーチャー様は、私がしっかりと座ったのを確認した後、話し始めた。

「……いきなりの訪問、大変申し訳なかった。少し話が長くなるが問題ないだろうか」

「ええ、特に予定もありませんので問題ありません。ところで侯爵様は西の戦地へ赴いていたとのことでしたが……」

「その件については上手く片付いたので、予定よりも早く戻ることができた。当分は国内に留まり、団長としての任務にあたる予定になっている。……まあ急な争いが起こらなければ、の話だが」



初めて耳にするアーチャー様の声色は、思ったよりも低い。


けれど低いだけではない。

その中にも含まれる色気は、聞いているだけでも思わずうっとりとしてしまうほどだ。


この声で愛の言葉を耳元で囁かれたなら、女性であれば誰でも一瞬で落ちてしまうだろう。


さすがこの国の一番の美男子。

その美貌は伊達じゃない。


「それで、お話というのは」


父が恐る恐る話を切り出す。

アーチャー様ほどの人間が約束もなしに突然屋敷へ来たのだから、憂慮してしまうのも仕方ないだろう。

隣に座る私ももちろん、表立っては冷静さを保っているが、内心は不安でいっぱいだった。


私がここに呼ばれたということは、私に関係することなのだろうから。


……一体、私がなにをしたというのだろう。

この一年、全くといっていいほど外にも出ず、人との交流もない。

アーチャー様に対して不利益なことをした記憶もないのに。


アーチャー様は、父に向けていた視線を再び私に向けた。

力強いその眼差しに、私の鼓動はより激しさを増す。



「では単刀直入に言おう。私がここに来たのは、結婚の申し込みをする為だ。……アリシア=ネリベル。どうか私と結婚をして欲しい」