正直、今の婚約者を蹴落とし、私がアリシアを奪うのは可能だ。

それだけ好きならば、行動を起こしたっていいだろうと、一瞬頭をよぎる。

しかし私が奪ったところで、アリシアが私を覚えているとは限らない。

ましてや婚約者との思いが通じているのならば、私が無理に婚約者となっても、ただ嫌われてしまうだけだろう。


嫌われたくはない。


忘れていてもいい。

彼女の口から私を否定するような言葉だけは聞きたくない。


もう、どうすることもできなかった。

特別な理由がない限り、アリシアを私の妻とすることは、もう不可能だ。


失意の中、無情にも時は過ぎていく。

近付くアリシアの結婚。

もう少しで彼女は私のものではない、他の男のものとなる。


苦しくて、切なくて。

それでも彼女の幸せを願うならば、私はただ心の中で祈るしか方法はなかった。