やがて流れていた音楽が静かに止み、大広間の一番奥の扉が開かれ、朱色の王族服に身を纏った男性がベルフォンヌ様の手を引き、壇上へと上がる。


参加者たちは一斉にベルフォンヌ様に視線を向けた。


ベルフォンヌ様の表情はとても穏やかな表情をしており、噂にあるような憂いのものは見当たらない。

そして隣の男性……、つまり婚約者となるリーガル国の第二王子と寄り添うようにして立っていた。


ふたりの仲睦まじい姿に、参加者からは戸惑うようなひそひそ声が聞こえてくる。

ベルフォンヌ様は周りが静かになるのを待ってから、ゆっくりと話し始めた。


「今宵はわたくし達のために集まって下さり、とても感謝しています。ここで正式にリーガル国の第二王子と婚約したことを、皆さまにご報告致します。わたくしはこの出会いと縁に神に感謝しても感謝しきれぬほど、嬉しく思っているのです。今のわたくしには"幸福"という言葉以外、なにもありません」

自然と参加者から拍手が上がる。


「根拠のないものは、いずれ消えて失うもの。わたくしと王子の間には揺るぎない絆で結ばれています。それはかねてより秘めていた互いの思い。わたくし達は出会うべくして出会い、互いの心の中で愛を育て、そして晴れてこの日を迎えることができた。嘘偽りなど存在はしない。これが事実なのです」

その言葉に、周りはざわつきをみせる。

言葉の中身はかなり濁しているが、"あの噂は嘘である"とハッキリと言っているに等しい。

最初は信じられないといった顔をしていた貴族たちも、真っ直ぐに見据えて語るベルフォンヌ様の姿に、徐々にその態度を軟化させていった。