捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~



その声に反応して扉の前で立つディアスは、手に持っていた明かりを顔の近くに寄せると、ニヤリと笑う。


「僕の声を忘れていなかったんだね、嬉しいよ」



明かりによって映し出されたディアスの風貌に、思わずごくりと息を呑む。


私の記憶にあるディアスの面影は、とっくに無くなっていた。


小奇麗にしていた顔には無精髭が生え、必ず流れるように後ろにセットされていた髪も、今ではぼさぼさだ。

そして細かく刺繍のされたジュストコールを纏っていた身体も、今では盗賊かと思うほどに汚れた布の服を着ている。



見た目ではディアスだと誰も気付きはしないだろう。




でも私の前にいる男は、紛れもなく"ディアス"だ。



ディアスはゆっくりと私の元へと歩み寄る。


私は逆に逃げるように、座りながら後ずさるが壁にあたってしまい、それ以上行くことができない。

その間も、ディアスはじりじりと距離を縮めていく。



「こ、来ないで!!」

そう叫ぶのがやっとだった。