馬車は一向に動く気配はない。

扉が開かれる気配もない。


ましてや外からは悲鳴のような声が聞こえ、馬の嘶く声も途切れない。

その騒がしさから、只事ではないなにかが起こっているのだと悟った。

まさか事故でも……!?

けれど、この騒がしさは……!


恐怖で身体が震えてしまう。


やがてバタバタと馬車へと近付いて来る足音が聞こえた。

身の危険を感じ、私は必死で窓を開けて、そこから飛び降りようとした。

が、到底そこから出ていけるわけもなく、乱暴に馬車の扉が開かれる。


「ひっ……!!」


抵抗する余裕なんてなかった。

あっという間に痛む腕を掴まれて、激痛が走ったと思った瞬間、目の前が真っ暗になる。


「い、嫌あっ!たす」

"助けて!!"


そう言おうとした。


けれどその言葉が発せられないまま、私の意識はぷっつりと途絶えてしまった。