「ランスは、忘れてなかったのね」
「忘れることなんてできるものか。私はあの歌に、そして幼くもどこか大人びいた姿に、一瞬で心惹かれたんだ。……最初はまだ子供の君を好きになるだなんて、あり得ないと自分の思いを否定していたが、でも忘れられなかった。それどころかアリシアへの思いはどんどんと膨れていくばかりだった」
私を抱きしめる力が強くなる。
「私はアリシアを守れる存在になりたいと、そのとき目標を立てた。それは騎士団長になる、ということだ。その目標を胸に毎日を過ごしていた。そして、晴れて騎士団長という位に付き、いざ、というときに遠征に出ていかねばならず、その後も他国との争いが続いて、中々君に会うことができなかったんだ」
ランスは淡々と、しかしどこかしら切なげな声で話を続けた。
「諸々の争いごとも片付き、戻った頃には君はあの男と婚約していて……。それを聞いたときには、絶望の淵に突き落とされたような感覚に陥ったよ。なにをやっても手に付かない、私はなんのために騎士団長になったのかと、職を捨て自暴自棄な生活をしてやろうかと、そこまで思うほどだった。……でも」
「……でも?」
「覚えているか?あの一年前の夜会のときだ。囲まれた人の中で私は君を見つけ、そして目が合った。初めて会った日から五年以上経ち、より美しく大人になったアリシアの姿を見て、心が締めつけられるほどに苦しくもなったが、同時に君が幸せならそれが一番じゃないかと、納得もした。目が合っただけで、あのときはなぜか満足に思えてしまったんだ」
……ああ、やっぱり。
あのとき、目が合ったのは勘違いではなかった。
まさかあのとき、ランスがそんなことを思っていたなんて。
私はあの瞳にドキリとして、危険だなんて思ってしまっていたけれど。
ランスは、伝えられない思いをずっと秘めたまま、私を見つめていたのね。

