サキュバスとは、世間一般に"男を誘惑する淫魔"として知られる悪魔のひとりだ。

その名を出されるということは、私がランスに対して誘惑して身体の関係を持ち、ベルフォンヌ様とは結婚できないようにした、と認識されていることになる。


いくら噂とはいえ、そこまで私自身がそう揶揄されているとは思ってもみなく、血の気が一瞬で引いた。


「さすがにこれでは、アーチャー家はもちろん、ネリベル家の名誉にも関わってくる。特にランスロットはこの国ではなくてはならない人物なの。このままでは、部下たちランスロットへの忠誠と信頼が崩れてしまう。このようなありもしない噂で今の地位を奪われるのは、国の国権に関わることなのよ」


「え、ええ。それはたしかに……。でも、どうしてこんなことに」


「その理由は簡単だわ。ランスロットを疎ましいと感じる人物がいる、ということ。それもこの国の中でその座から引きずり降ろそうとしている人間が存在している、ということよ」


「……え!?」



ベルフォンヌ様の発言に、言葉を失くす。

たしかにランスの功績は華々しい。


彼が騎士団長だからこそ、このバークレイ王国の平和が保たれていると言っても過言ではない。



逆に他の国から見れば、彼はいては困る存在。

他の国の人間が疎ましいと感じることについては、なんらおかしい話ではない。

けれど、この国の中でそれを疎ましいと感じる人間がいるということは……。